誰も知らない縁壱の、悲しい運命。
縁壱の悲しい運命と聞いてまず想像するのは、うたとお腹の子供を失ったこと。
でもあれも全ては、縁壱が生まれながらにして持っていた「天命」から起こったこと。
それはどういうことか。
縁壱は生まれながらの痣者で、幼少期から透き通る世界を見ていました。
もちろん幼少期の縁壱は、自分がどうしてそのような体で生まれたのか、知るはずもありません。
しかし鬼の存在を知り、鬼舞辻無惨と出会った時、初めて自分の体の意味と、持って生まれた天命について知ることになります。
縁壱は言っていました。
「出会った瞬間にわかった。この男を倒すために生まれてきたのだと」
鬼舞辻無惨を倒すということ。
それが縁壱の、生まれ持った天命。
縁壱は鬼舞辻無惨と出会った瞬間に、自分の天命と存在価値について知ったのです。
縁壱は、生まれた時点で痣に対応した体をしており、一昼夜走り続けても疲れないという、驚異的な心肺能力を持っていました。
それは呼吸の使い方もマスターしていることで、実現していたと思われます。
そして縁壱は「人の体を透かして見る」という能力も持っています。
幼少期にはその能力で母の病気を見抜き、無惨と対峙した際には、無惨の体の中に複数の臓器があることを透かして見ることで、無惨の弱点を見抜くとともに、日の呼吸を完成させています。
そうして無惨を、あと一歩のところまで追いつめた縁壱。
しかし、無惨は分裂して逃げてしまいます。
無惨を倒すために生まれてきた縁壱ですが、結局自分では天命を全うできませんでした。
そんな縁壱の気持ちを救ったのが、竈門家であり炭吉です。
縁壱の想いと呼吸法は、竈門家によって炭治郎たちがいる時代まで受け継がれ、今まさに、無惨を倒さんといったところまできています。
縁壱の運命の何が悲しいって、縁壱は生まれた時点で、幸せな人生は送ることができないと、確定していたということです。
縁壱が痣者として生まれ、透き通る世界を見ることができたのは、鬼舞辻無惨を倒すという天命を持って生まれたためです。
そんな縁壱が、うたと子供と静かに暮らすということは、天が許さなかった。
天命を思い出させるために、あのような形で鬼という存在を、天は縁壱に知らせた。
あのまま縁壱が、うたと子供と幸せに暮らしていたのであれば、無惨を倒せる者は生まれることがなかったでしょう。
自分では無惨を倒せなかったとはいえ、日の呼吸が伝承されなければ、痣者はもう生まれなかったかもしれない。
縁壱の生は、鬼舞辻無惨が生まれたことによる、人々の鬼を倒したいという想いから生み出されたもの。
その想いを全て背負い、縁壱は無惨と戦ったのです。
そしてあの時、縁壱が珠世を逃がさなければ、珠世が無惨に投与した様々な薬は、生まれなかったということになります。
全ては、縁壱が作り出したきっかけ。
それが400年以上の月日を経て、いよいよ炭治郎という痣者が生まれ、そこから痣が伝染していった。
縁壱の過去は悲しい。
これはそんな簡単な言葉で、終わるようなものではないのです。
「いなくなってしまった人たちのこと、時々でいいから…思い出してください」